開幕 昔々の話


 昔々、絶対開けてはならぬと言い聞かされ続けた箱がありました。
 皆はその箱に興味を持ちつつも、開ける事はありませんでした。
 しかし、興味が自制心を上回ってしまった人々は考えました。
 開けたことを内密にしておけばいい―――そうして、禁断の箱を開けました。
 中には考えもつかないものが詰まっていました。それは世界を変える力でした。
 人々は驚きました。
 人々は手に入れた力を使いたくて仕方ありませんでした。
 ついに、その力はその人々によって存分に使われました。
 世界は滅びました。使った彼らも息絶えました。
 それから、生き残った人々はこの思いを忘れてはならん―――そう言って立ち上がりました。
 愛しい人も無くし、大切な家族も無くし。
 理由も無く滅ぼされた人々の中で、復讐者が生まれました。
 また「力」も生き残りましたが、生き残った復讐者に滅ぼされそうになりました。
 「力」は何故自分達が世界を滅ぼさなくてはならないのかを知りませんでした。
 ただ復讐者達が自分たちを壊そうとするから、護りたいものを護りたかった。
 それをどんなに叫んでも復讐者は信じてくれませんでした。
 「力」は自分が滅ぶことに恐れをなし、仕方なく「力」を使いました。
 またたくさんの犠牲者が出ました。
 溝は深まりました。それはまるでたくさんの血を受け止まるかのように深い深い溝でした。
 それからお互いは対立しあい沢山の犠牲者を増やす戦いが始まりました。
 人々は「力」を滅ぼそうとし、「力」は人々を服従させようとする戦いは長く続きます。
 しかし長くたってもまだ彼らは知らないのです。
 開け放たれた箱の中に小さな「希望」が混じっているということを―――


 青年は希望の幻影を持ち、老人は想起の幻影を持っている。 ―キルケゴール「死にいたる病」―


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